福岡の展示装飾・ディスプレイデザイン

展示会とは何か?(1)

展示会の解釈


last updated on April 30 2020
Brief
Designer:Ken Egami

 経済産業省による展示会の定義は次のようになっている。「商品・サービス・情報などを展示、宣伝するためのイベント(ただし、フリー マーケットや路上販売は含まない)」。これは、国際標準化機構(ISO)における、「展示会」の定義(ISO25639 定義)に準拠しているのだという。『展示会とは 経済産業省』

 ◆

 
 1)ビジネス系展示と博物館展示
 
  見本市としての展示会(Exhibition,Trade Show,Fair,)と博物館におけるミュージアム展示(museum exhibition)は、同じように展示を主としながら少し違った印象がある。
  博物館では常設展や企画展における「○○展」や「○○展示」となるケースが多い。博物館で「展示会やってます」とはあまり言わない。その違いは「会」の字の有無にあるのだが、何が違うのだろうか?
 
 江戸時代、我が国では「物産会(ぶっさんえ)」とよばれる集まりがあった。この集まりは、本草家(薬草研究家)たちが薬草や鉱石、動物など天然から取れる薬になる産物を持ち寄り、展示・品評する会である。幕末まで江戸、大阪、京、尾張、近江、富山、熊本など各地で開催されており、その性質から「薬品会」や「本草会」ともよばれていた。専門色の強いこの集まりは下図の『尾張名所図絵』を見ると、今日の展示会のようでもある。
 
 『本草学者という人々』のサイトによれば、1757年(宝暦7)から1867年(慶応3)までに大小170以上もの物産会が開かれている。中でも、平賀源内を会主とし、江戸湯島の京屋九兵衛で開催された「東都薬品会」は、薬草や鳥獣、魚介、昆虫、鉱石のほか書物などを全国から募集した大規模な催しだった。

 
薬品会
尾張で開催されたの薬品会(物産会)の様子
国立国会図書館デジタルコレクション

 
 下記がデジタル大辞林の「会」の説明だ。
「会」とは多くの人が集まること。また、その集まり。多く仏事、または祭事をいう。
「―を設けて供養しき」〈霊異記・下〉

1 催し事のために多くの人が集まること。集まり。「会を開く」
2 目的や好みを同じくした人々が作る組織。「原生林を守る会」
3 出あうこと。めぐりあうこと。「鴻門(こうもん)の会」
4 ちょうどその時。折。「風雲の会」

 
 人同士が会う集まりが会だから、ビジネスショーのように売る人と買う人が集まる会は展示会だ。源内たちの「物産会」も、「生薬」に関心のある人たちが集まって展示品を並べて見せた集いだから会である。何やらワイワイと楽しいイメージが湧いてくる。
 
 それに対して、博物館の展示にたくさんの人が集まるにもかかわらず来場者は人と会うのではなく、展示品と出会う。どうもここらへんに博物館の展示が展示会とニュアンスを異にしている原因があるのかもしれない。博物館展示の多くは人と人ではなく、展示物と人とのコミュニケーションで成り立っている。だけどこれは容易ではない。中にはスキップされる展示物もある。
 
 モノと人とのコミュニケーションはあるかもしれない。例えばエジプト展の棺を見ると「どうしてこんなに凝っているんだろう」とか「中身は?」なんて思ったりする。これもコミュニケーションに違いない。しかし、パワーのある展示物だからこそ成立する。
 
 博物館の展示物に説明する人や音声補助などをつけて、コミュニケーションをアシストしてくれるならば、展示物と見る人とのコミュニケーションも成立するかもしれない。見る人も正確に理解することで楽しく見たり知的好奇心も高まる。そしてこの「オーディオガイド」は多くの美術館や博物館で使われている。大英博物館では多言語に対応したサービスを提供しているくらいだ。
 
 泉 眞也氏の『空間創造楽』は、吉川弘之氏の言葉である「メッセージ型情報」と「マッサージ型」を引用してその違いをわかりやすく説明してくれる。情報化が進むと、効果的で即効性のある「メッセージ型情報」に対してマッサージのように全身が活性化される「マッサージ型情報」が求められるという考えだ。そして、博物館は「メッセージ型」であり「マッサージ型」であるという。
 
 さて、ディスプレイデザインには、博物館が「マッサージ型情報」を発信する役割があるのだが、どんなアイデアが浮かんでくるだろうか?
 
2)展示会と展覧会
 
 

モナリザ
 ルーブル美術館での撮影は可能だが、フラッシュは厳禁
 

 展覧会という用語は主に美術に関する展示で用いられているが、広義には展示会の一つだ。博物館の企画展と同様に、展覧会も期間限定で開催される。ディスプレイデザインでは多くの場合、チケットブースやサインを製作することもあるが、作品には干渉しない。このことは他の展示会においても展示物が主であり、ディスプレイデザインが副であることを示している。
 
 美術館や博物館の展示に、照明は重要な役割を果たす。しかし、光は作品を劣化させる恐れが高い。そのため近年、赤外線や紫外線を含まないLED照明が用いられるようになった。また多くの美術館で撮影は禁止されているが、中には撮影可能の館もある。だが、フラッシュは厳禁だ。
 
3)展示会と博覧会
 

 
太陽の塔

 
 展示会と博覧会の違いは極めて曖昧だ。
 『広辞苑』は、「展示会」とは「品物・作品をならべて展示する会」であり「博覧会」は「種々の産物を蒐集展示して公衆の観覧及び購買に供し、産業文化の振興を期するために開催される会」とする。それによると、広義には博覧会も展示会の一つだがその種類は多く、目的は産業文化の振興ということになる。
 
 我が国では明治時代からおびただしい数の博覧会が開催されてきた。明治4年から太平洋戦争開戦まで500回以上の博覧会があったという。国の姿が大きく変化する時代、殖産興業政策の一環として開かれた「内国勧業博覧会」の歴史が「博覧会」という言葉を定義付けたと言える。明治時代には同じ意味で「共進会」という展示会も使われていたが、その違いは主催が国か地方ということだろうか。
 
 また明治から大正時代にかけて、ランカイ屋と呼ばれる博覧会を業とする人たちもいた。『都市のドラマトゥルギー』(吉見俊哉)によるとランカイ屋とは、「博覧会の開催にあったて企画や興行を専門に行う人々で、博覧会の見世物化と軌を一にして登場してくる近代の見世物師たち」であり、博覧会は娯楽性の高い展示イベントになった。
 
 国際規模で行われる展示会や博覧会は、それぞれ「国際見本市」、「万国博覧会」であり、我が国での最初の国際見本市は1954年(昭和29)に大阪で開催された第一回国際見本市、万国博覧会は1970年(昭和45)の日本万国博覧会だ。そのどちらも大阪で開催されている。また、万国博覧会はexhibition(展示)よりも大掛かりなexpositionが用いられている。

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