福岡の展示装飾・ディスプレイデザイン

ディスプレイデザインと
ビジュアルコミュニケーション


last updated on April 27 2020
Ken Egami

1)ディスプレイデザインの優位性
 ディスプレイや展示という用語が意味するように、ディスプレイデザインとは見せて伝えるための行為である。だから、ディスプレイは「見せる行為」なしに成立しない。そして、人は情報獲得の大部分を視覚を通して行っている。「脳につながる神経線維(nerve fibers)の40%は網膜にリンクしている」という。(jensen.1996) また、脳に届く情報の90%が視覚的だとされる。(Hyerle 2000)
 
 しかし、どれだけ多くの情報を記憶しているだろうか?ヨーロッパでの調査になるが、「現在人は平均すると一日に800の言葉、2000のイメージ、2万の視覚的刺激、500のシンボルマークを見ているのだが、記憶に残るのは、このうち10個に過ぎない。」という(『メッセージするデザイン』ジェラール・キャメロン 井澤初美訳)
 
 ビジュアルコミュニケーションは早く認識できる点で有効性が認められているにもかかわらず、弱点もある。そこで、ディスプレイデザインは何ができるだろうか?
 
◆瞬間的に伝える

文字と画像の比較
 

 人はたくさんの文字情報を瞬間的に処理するのがあまり得意ではない。George A. Millerによる「Miller's Law」(もしくは「Miller's 7 bit-Rule」)によると、いくつもの言葉や数字を短時間で処理できる容量は9から5の塊(7±2)であるとされる。例えば、電話番号を0924608235を覚えるよりも092(406)8235と3つに分けると覚えやすいのは、経験上理解できるはずだ。要するに、普通の人がまとまりのないたくさんの文字や数字を処理したり覚えるのは容易ではない。だから広告では、内容を区分したり文字数制限したりする。このMillerの法則はディスプレイデザインに限らずあらゆる情報デザインの指針となる。
 
 それに対して、図や写真、映像等を使った視覚伝達(ビジュアル・コミュニケーション)にはテキスト情報を処理するよりもはるかに速く情報伝達ができるという優位性がある。「人は1時間あたり36,000のビジュアルメッセージを処理でき」(jensen 1996)、「人が20〜25語の文字を読むのに平均6秒かかるのに対して記号(ビジュアル)の処理には約1/4秒しかかからない」(Thorpe,S., Fize,D &Marlot,C. 1996)という研究結果がある。物体を見る能力は先天的であり、文字は学習による後天的能力である。だから脳はビジュアルによる情報処理を優先させる。
 
 しかし、ビジュアル(イメージ)は文字情報よりも正確性や具体性を欠く側面がある。そのため、他の手法を加えてより具体的に伝えようとする。例えば、映像にジェスチャーや音声を加えるテレビCMはその典型だ。ディスプレイデザインの領域でもそれが可能だ。しかも、見る側との間に膜(スクリーン)を作らない。ディスプレイデザインでは造形、スクリーン、オーラルを含めた音声、人などの組みわせによりダイレクトなビジュアルコミュニケーションができる。しかも立体的に構成され、現実味を帯びる。ディスプレイデザインのこうした多様性と柔軟性はビジュアルコミュニケーションの瞬間的伝達を生かすだけでなく、その弱点をカバーするに違いない。要するに五感を使ったコミュニケーションを可能にすると言えるが、そのプロセスさえも視覚を通して行われる。
 
 ◆インパクト

大きなモニュメント写真
Mount Rushmore National Memorial Park
Clarence AlfordによるPixabayからの画像
 

 
 視覚効果におけるディスプレイデザインの優位性は、ヒューマンスケール、すなわち人の目の高さで立体的に表現され、空間を占領できる点にある。例えば、世界一小さな時計よりも世界一大きな時計を見た方が強く印象に残る。大きい造形物は人の目に止まるだけでなく、一度にたくさんの人が認識できる特性がある。ビルの壁面グラフィックやサインはその応用だ。すなわち、グラフィックデザインと比較すると、圧倒的なサイズにより視覚情報は強調される。それをきっかけとし、無意識的にブランドを思い出させる可能性は高い。
 
 そのほか、ゲリラ広告(Guerrilla Marketing)という強いインパクトを与える手法もある。Jay Conrad Levinsonが『Guerrilla Advertising』として指摘した、低コストで型にはまらないアイデアで高い効果を生み出すとされる広告戦略だ。「ゲリラ広告」についてはこちら
 
◆記憶
 

記憶のイメージ写真
congerdesignによるPixabayからの画像
 

 
 人間はあらゆる記憶をいつまでも保存できるとは限らない。マーケティングは、ある意味、人間の記憶との戦いでもある。ビジュアルコミュニケーションであるCMは繰り返しにより見る側に印象の焼きつけ効果を図ったり、大型の屋外広告はそこを何度も通ることで思い出されたりや気付かせたりしている。当然、印象的なマーケティングを用いるならば、そのブランドは人々の記憶に長く留まる可能性がある。
 
 Bahrick, Bahrick, and Wittinger (1975)は、17歳から40歳の392人の高校卒業者を対象にクラスメイトの名前を思い出せるVLTMというテストを行った。写真と名前のマッチングテストでは15年を経過しても90%の正解率があり、もう一つの「フリーコールテスト」(おそらくランダムに名前を思い出す方法か?)では60%だったという。この実験はあまり正確ではなく、水増しされているともいうが、(『The Concise Corsini Eycyclopedia of Psychology and Science』2004)画像が記憶の保持に大きく関わるのは事実のようだ。そう考えると、複合的ビジュアルコミュニケーションとも言えるディスプレイデザインは見る人の記憶を強化できると考えられる。
 
 一方、人の画像記憶は間違ったり不正確になる傾向があるとされるが、予想に反するテスト結果もある。このテストでは5.5時間の間に2500枚のビジュアルを見せ、3つのパターンに分けて記憶テストをしている。第一は全く異なった2つのビジュアル、第二は同じ種類で大きさや色などが異なる、第三は同じ種類で状態が異なり、それぞれ2枚のビジュアルで正誤をつけるテストだ。その結果、第一の正解率は95%、第二は88%、第三は87%だったというから、画像に対する興味や取り組み方(この場合はテスト)で記憶は保持されるといえるかもしれない。『Visual long-term memory has a massive storage capacity for object details』(2008)
 
 ところが複合的ビジュアルコミュニケーションともいえるディスプレイデザインは、全てが見る人の記憶に留まり続けるのかというと、そうでもない。テレビCMのような映像を使ったビジュアルコミュニケーションは、繰り返し流すことで脳裏に焼き付けられる。しかしそれは個人の好みに依存する。私が覚えている昔のCMと他の人では全く異なる答えが出るだろう。しかし「懐かしのTVCM」などで思い出されたりする。
 
 ディスプレイデザインの展開は大部分が短期で終了する。そのためTVCMのようには行かない。しかし、ディスプレイデザインが求めているのはそんなに長い記憶ではなく変化だ。その変化の繰り返しにより記憶や認識ができるようになる。すなわち、シーンの変化がディスプレイデザインの発する刺激ともいえるだろう。あとは、ディスプレイデザインはその使命ともいえる「stand out=目立つ」なデザインの変化や体験で人々の記憶に留めてもらうほかない。

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