パレードと
ディスプレイデザイン
パレードにおけるディスプレイデザインの役割は非常に大きい。パレードの主役ともいえる「フロート」のデザインの多くはディスプレイデザイナーに依存している。パレード最大の特徴は「非日常的な空間」である。非日常のカタチを言い表すのは難しいが、巨大化は特質すべき非日常的要素だ。
パサディナのローズパレード(Tournament of Roses/pasadne/CA, USA)やズンデルトのブルーメンコルソー=花のパレード(bloemencorso/Zundert/Netherlands)、リオのカーニバル(Carnival/Rio de Janeiro/Brazil)。これらのフロート(山車)は実に巨大だ。
ダリアの花で覆われたズンデルトのフロートは高さ9m、長さ19mもある。リオ・デ・ジェネイロのカーニバルフロートもそれに負けないくらい大きく、高さ32feet(約9.7m)までなら許されるらしい。ローズパレードはスタート地点までに問題がある。途中で高さ約5mのフリーウェイの高架をくぐらなければならない。そこを数分でクリアできることが認められれば、フロートサイズには制限がないようだ。2005年の中華航空は高さ35m、長さ16.7mのフロートを提供している。
我が国のパレード(祭礼行列=procession)でも巨大な山車が見られる。石川県七尾市で行われる伝統行事「青柏祭(せいはくさい)」の「でか山」とよばれる山車の高さは12m、長さ13mもある。茨城県日立市の「日立風流物」は高さ15m、横幅5〜7mとこちらもでかい。高さだけなら祇園祭の鉾は25mに及ぶ。
日本では山は神の宿る地として信仰されていた。そして祭りの時に降りて来る。だから神の依代である山車は山のように大きく、神にふさわしいように装飾されると考えられている。そして、ここにも日本ならではのディスプレイデザインを見ることができる。福井県坂井市の「三国祭」の大きな武者人形たち、「高山祭」に代表されるからくり人形、尾張の「山車祭り」で見られるような彫刻、そのほか無数の提灯の光や幕、水引も各地で見られる。これらのきらびやかな装飾は"風流(ふりゅう)"とよばれる我が国のディスプレイ手法だ。
巨大なフロートや山車が人に与える心理的効果は分からないが、"驚き"はその一つであろう。圧倒する大きさに加え、ローズパレードのようにファンタジックに、ズンデルトの花のパレードのようにエキセントリックに、リオのカーニバルのようにアミューズメント性高く。それに音楽や踊りが加わり流れていく。これはまさに"スペクタクル"だ。そして"風流"と"スペクタクル"のカタチは全てディスプレイデザインによるものである。
1996年のローズパレードで、巨大なアラジンの大きな手のひらの上に着飾った男が乗っていた。肩にコンゴーインコをのせて。それはまさしくファンタジックな光景だった。彼の名はRaul Rodriguez。彼もローズパレードフロートのデザイナーだった。残念ながら2015年に亡くなったが、彼はそれまでたくさんのフロートに関わり、さまざまなファンタジックを提供し、多くの受賞をしている。この夢のような一コマの提供はディスプレイデザインの究極と言ってもいいだろう。
Parade Float Making
パレードのデザイン・製作
業務内容 |
1)パレードフロートのデザイン・製作
2)山車のデザイン・製作
3)パレード衣装のデザイン・製作
4)着ぐるみのデザイン・製作・レンタル
1.パレードフロートと山車の違い
パレードフロートはパレード時に登場する装飾された車であり、基本的に自走式だ。
我が国の伝統的な祭礼行列で使われる山車と同じ役割がある。パレードフロートも山車のどちらもその行列を演出する造形物だ。そしてそのどちらも趣向を凝らして製作され、見世物としての役割がある。山車という用語や曳き型スタイルは我が国のパレードイベントにも受け継がれ、フロートと同じようにパレードを象徴する。
神輿は祭礼最大の象徴だが、神様の乗り物なので役割が異なる。英語圏における宗教行事等の神聖な行列は、paradeと区別するprocessionという用語が用いられ、キリスト像やマリア像を担いで行進する行事もあるので、神輿はそれに相当すると言えそうだ。
ちなみに、御神幸に代表される祭礼行列の山車のスタイルは、フロート以前に使われていたページェント・ワゴン(pageant wagon)に近い。
祭礼行列での主役は神様であり、その乗り物である神輿は最も重要な存在だが、江戸時代の山王祭のように山車の方が主役のようになった祭もある。趣向を凝らした山王祭の巨大な山車は、見世物として江戸の人々を楽しませた。カーニバルのフロートに相当すると言えそうな山王祭の山車は、祭礼を利用して人々が楽しもうとした経緯があるのだという。そうした祭礼行列のスタイルは江戸だけでなく、日本各地でも見られ、現代に受け継がれている所もある。
すべての祭礼行列がそうではないが、我が国の祭礼行列は神事の要素と人々が楽しむためのイベント要素がごっちゃになった歴史がある。祭礼行列を演出する鳴り物の山車やさまざまな造形物として山車、それに仮装隊も加わり、祭礼のいくつかはパレード化したのである。
そうした祭礼行列で使われ、現代のパレードイベントで作られている山車は、
我が国の祭礼行列に登場する山車に相当するのが西欧のパレードにおける「フロート」だ。
毎年1月1日(日曜日だと2日に移動)に米国・パサディナで行われているローズ・パレード(Tournament of Roses)のフロートは、まさしく船が浮いているように工夫されている。これは、Isabella Coleman女史(~1969)が1920年代に飛行機の車輪を利用して山車をできるだけ低くし、まるでフロートのように考案した成果である。
それにしてもなぜフロート(浮くもの)なのか?
その由来説の一つに、ロンドンの市長就任式( Lord Mayor’s Show )で行われるいるパレードがある。ここでの市長とは、ロンドンの中心にある一辺1マイル(1.6km)のCity of London(スクエアー・マイル)と呼ばれる地区の市長であって、ロンドン全域の市長ではない。
1215年、ジョン王がバロン(貴族の一種)や都市の自治権を承認する『マグナ・カルタ』に署名し、スクエアー・マイルの市長選出と就任式の制度は始まった。2000年からロンドンを首都とするグレーター・ロンドンの市長選が開始されるようになったが、City of London(スクエアー・マイル)の市長選は800年経った今も続いている。
その市長就任式には、スクエアー・マイルから1マイル(1.6km)ほど離れたウェストミンスターの裁判所に行き、宣誓する儀式がある。初めの頃は、市長になるべき人物は馬車を使い、ウェストミンターまで行列を組んで向かっていた。
ところが、1422年、William Walderne市長は、「早くて安全」という理由でバージ船(barge/はしけ)に乗ってテムズ川を遡上した。陸路が十分に整備されていなかったのかもしれない。そして1453年、John Norman卿は豪華なボートを使って川を登り、ウェストミンスターの裁判所を目指した。当時のバージとはどのような船だったのだろうか?
The Stationers' Companyによると、バージ船はテムズ川で乗客を運ぶために建設された手漕ぎボートだったという。要人用に天蓋があり、船も次第に洗練されたデザインになっていったようだ。テムズ川でバージ船を使った市長就任式パレードでは、ミュージシャンも同船できるようなつくりになっており、川岸の観客も楽しめるようになっていたという。1829年に描かれたStationers' Bargeの絵には、手の込んだ装飾が施された手漕ぎの船を見ることができる。
そして市長就任の豪華水上パレードは1856年まで400年以上続くことになる。
バージ船による水上パレードが我が国での山車に当たる「フロート」と呼ばれるようになったというのが有力な説だが、船とパレードの関係はそれ以前にもあった。
例えば、古代エジプトの祭りの中には、船(barques,Userhat-Amun)に神々の像を乗せて別の寺院に運び、そこで儀式を行うイベントもあった。ナイル川沿いの土手に一般の人や巡礼者が集まり楽器を鳴らし、川を登る時には船を曳くなどしてパレードに参加している。
1856年以降、水上パレードは断続的に開催されたが、今では道路での大パレードや各種イベント、花火大会なども加わり、ロンドンのリバー・ページェントとなっている。(11月の第二土曜日に開催)
資料
・WORDWIZARD
・The History of the Lord Mayor's Show Transcript - Gresham College>PDF
・pageant and powaer>PDF
・John Norman (d.1468)ウィキペディア
・Lord Mayor’s Show jumps ship on river pageant
・The Sumter Daily Item 1月2日,1980
・Pasadena Star-News >Isabella Coleman rose parade legacy live on
・The Stationers' Company>THE STATIONERS’ COMPANY’S BARGE
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