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ディスプレイデザインの移り変わる価値


last updated on Jun 01 2020
Ken Egami

ディスプレイデザインとウィンドー
 

 

 ディスプレイデザインは「仮設性」を伴うケースが多い。仮設性は一過性であり、一時的に現れ、消えてはまた現れる。一方、今日の電子機器、例えば携帯電話もまた新機種が次々と発売され、なかなか良いデザインだな思っていた機種が数年後には姿を消す。だが、ディスプレイデザインのそれと、これはちょっと違うかもしれない。出現しては何もなかったかのように消えるディスプレイデザインと、機能の変化に伴いデザインが刷新されて残された携帯電話。前者は植物のように同じ場所で生まれ変わって花を咲かせ、後者は記憶に残るが古臭さを感じさせる、という捉え方もできないだろうか。(とても優れた工業デザインは別かもしれないが)
 
 ウィンドーディスプレイはその典型だ。ショーウィンドーの多くは季節ごとに変化する。『和光のウィンドウ』の中で、著者の矢島治久氏は「ショーウィンドーは季節を知るための大切なメディアでもある」と述べ、それが街の景観をつくっているという。
 
 1952年から、和光は銀座四丁目の交差点、いわば銀座のど真ん中で高級志向で上質のディスプレイを展開し、通行人に銀座のイメージを伝えてきた。当初は、原 弘氏、亀倉雄策氏、伊藤憲治氏といったデザイン界の大御所がたずさわっていたというから驚きだ。『和光のウィンドウ』という本を見ていても、そのセンスの良さを感じずにはいられない。サイトでも2008年からのデザイン変遷をみることができる。その一つひとつがセンシティブでストリーがあり、そのコンセプトが清水寺で揮毫される「今年の漢字」のように簡潔であり、もう十何年も続いている。ひょっとしたら、その方法はそれ以上使われているのかもしれない。例えば、2019年には8回の入れ替えが行われ、それらは「澄」、「理」、「志」、「季」、「爽」、「異」、「合」、「訪」といったコンセプトに基づいている。
 一年を通したウィンドディスプレイの「移り変わり」は銀座という街の表情ということもできるだろう。通り行く人たちはその変化に刺激され、銀座を感じる。そして、移り変わるからこそ、ウィンドーディスプレイはマーケティングとは別の役割を果たしている。いや、この何十年も同じ場所で花を咲かせる植物のようなマーケティング手法は「いいちこ」の駅貼と似ているのかしれない。が、それにしても、ものすごい努力が必要だ。さすが、時にこだわる「セイコーホールディングス」である。
 
 
 
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 Photo: Library of Congress
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 アメリカにおけるクリスマスのウィンドーディスプレイは、たくさんの人々を楽しませ、アメリカ人にとっての伝統となった。アメリカで最初にクリスマスのウィンドーディスプレイをした一つは、ニューヨークのメイシーズデパートである。それは1874年とされ、陶製の人形コレクションと「アンクルトムの小屋」が飾られた。『The Genesis of Holiday Window Displays』その後、シカゴやフィラデルフィアのデパートにも広がり、holiday windowという言葉もできた。
 
 
 1897年からクリスマスのウィンドーディスプレイを刷新したシカゴのマーシャル・フィールドデパート(Marshall Field’s:現在はメイシーズ)も多くの人々を魅了している。おもちゃで楽しく窓を飾ったアーサー・フレーザー(Arthur Fraiser)はこの世界の先駆者とされる。シカゴの人たちはマーシャル・フィールドデパートのクリスマス・ウィンドー(holiday window)の動く人形の楽しさや美しさに魅了された。そして、The Great Tree in the Walnut Room とよばれる大きなクリスマスツリー、赤鼻のトナカイ・ルドルフと肩を並べるほどのUncle Mistletoe(1984 John Mossによるデザイン)。マーシャル・フィールドのウィンドーディスプレイやウォルナットルームのグレートツリーを見に行くのは、シカゴの人たちにとって伝統となった。『Chicago Detours:THE MAGIC OF MARSHALL FIELD’S HOLIDAY WINDOWS』
 
 アメリカの特に都市部の人たちは、いろんなデパートで繰り広げられるクリスマスウィンドーを楽しみにした。上の写真にでわかるように、毎年趣向を凝らしたディスプレイを前にたくさんの人たちは足を止めて窓の中を見入った。アメリカ人も日本人もその時期になると出現するウィンドーディスプレイに珍しさや美観だけでなく、季節や都市を感じ取っていたに違いない。
 
 かつて、ウィンドーディスプレイは足を止めて見てもらうのを目的とした装置だった。石井研堂の『小売商店繁盛策:進歩的経営法(明治42年)』の中に、「窓飾(ショーウィンドー)とは見世先の窓硝子内に商品を美術的に飾りつけ、以って通行人の脚を止めさせ間接直接に客を引きつけるの法であります」と書かれている。今日よりも情報が発達していない時代、ショーウィンドーを通して見る商品情報は、消費者にとって重要な情報源であり、売る側にとっても便利な方法だったのだろう。石井研堂は、デパート以外のいろんな小売店でもショーウィンドー商法が用いられ、装飾しにくいような下駄や番傘の店にさえそのやり方は見られると述べている。
 
 ところで今日、ウィンドーディスプレイをまじまじと見てくれる人はどれだけ多くいるのだろうか?多くの人があまり気に留めないで、その前を通り過ぎて行く印象がある。そこまで惹きつけるには、かなりのデザイン力が求められそうだ。天神で見た「LOUIS VUITTON」のウィンドーディスプレイは良くできていて、思わず近づいて見たくなる作品だった。鏡面状の板を組みわせ、立体的に見えるようになっているのだが、実際の奥行きはあまりない。トンネルの中に引き込まれそうになって、「どうなってんの?」と思った人もいたに違いない。でも、多くの人がウィンドーディスプレイの前を素知らぬ様子で通り過ぎていく。もはや、かつての人々が覗いていたウィンドーディスプレイは、ネットショップのディスプレイに移ってしまったのだろうか?
 
 しかし人は1時間あたり36,000のビジュアルメッセージを処理できるという。(jensen 1996)1時間は3600秒なので1秒間に10枚の画像を処理できる。だから、見ていないようで、充分なほど見られていると考えられる。したがって、LOUIS VUITTONや和光をはじめとする優れたウィンドーディスプレイは、チラッと見ただけで、十分すぎるくらいの情報伝達ができている。ちなみにassouline 社から『LOUIS VUITTON WINDOWS』というすてな本も出版されているようだ。
 知らない間に消えてしまい、同じ場所にまた別の花を咲かせるウィンドーやイベントスペース。「あっ、何か変わったね?」そう思われた時点で、ディスプレイの役割を果たしているといえるのではないだろうか。
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